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名古屋高等裁判所 昭和23年(ナ)4号 判決

原告 鈴木周三 外三名

被告 福井県選挙管理委員会

一、主  文

昭和二十三年五月五日執行の武生市会議員選挙における当選の効力につき同年九月一日被告がなした裁決を左のとおり変更する。

武生市選挙管理委員会が決定した鈴木周三、大沢清の当選はこれを取り消す。

原告木倉政治郎の当選を確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用中原告木倉政治郎と被告間に生じた部分は被告の負担とし、その余は全部原告鈴木周三、大沢清の負担とする。

二、請求の趣旨

原告訴訟代理人は「昭和二十三年五月五日執行の武生市会議員選挙における当選の効力につき同年九月十一日被告のなした裁決はこれを取り消す。」との判決を求めた。

三、事  実

(一)昭和二十三年五月五日執行せられた武生市会議員選挙につき、原告木倉は投票数二百九十五票同鈴木は二百九十一票同大沢は二百八十八票訴外伊藤喜一は二百八十八票を得、原告大沢と右訴外伊藤とについてくじの結果原告等が当選と決定した。これに対し訴外大滝正雄から無効投票中伊藤の有効投票が二票あるとして、また訴外鶴野園喜から選挙権を有せざる第三国人四名及び刑の執行猶予中のもの四名の投票が混在している旨当選の効力に関する異議申立をしたところ同市選挙管理委員会は同月三十一日いずれもその申立を却下したので、同人等は更に被告に訴願をしたところ被告は同年九月十一日付の裁決書によつて前記武生市選挙管理委員会が無効とした二票の投票中汚染の一票を伊藤喜一の有効投票であるとし、また投票中に朝鮮人四名刑の執行猶予中のものも三名の無資格者の投票があるとして、原告等三名の当選を取消す旨の裁決をした。

しかし(二)右汚染の一票は相当過大の墨こんのあるもので、投票当時投票場には毛筆または墨類の備付がなかつたのであるから、これは投票者が自ら墨を持参したか、または不在投票によるものであると考えられるが、右投票用紙の伊藤喜一の氏名は鉛筆書であつて右墨こんは誤つて墨汁を落したものと認めがたく故意に付着させた有意義のものと思われるから他事記載として右投票は無効である。

また(三)本選挙における投票中被告のいうような無権利者の投票が七票あつたという事実はこれを爭う。仮に無権利者の投票が七票あつたとしても、これはすべての候補者のうちから一様に控除すべきであつて、そうすれば次点者蔭山眞(得票二七二票)と十二票ないし五票の差を生じて当選の結果に影響はない。また潜在的無効投票七票が若し原告等三名のうちいずれか一名に投ぜられたとすれば他の二名には投ぜられなかつたことにならざるを得ないのに原告三名にそれぞれ投ぜられたものとして二十一票の無効投票があつた如く取り扱うのは不合理である。武生市会議員の定数は三十名であつてその中たまたま訴外伊藤喜一と原告大沢とが同数の得票があつたことによつて、その次点者と何等関係のない他の原告二名を失格させ結局一割の議員を失わせしかもこれについて補欠選挙もなし得ない状態を発生させることは不都合といわねばならぬ。

(四)仮に右の潜在的無効投票が七票あつたとしても、その他の無効投票百六十票中原告等の有効投票と認むべきものが存在し伊藤喜一の有効投票と認められたものの中他に二十票の無効投票があるから何れにしても被告のなした裁決は違法である。なお原告鈴木周三は本訴提起後武生市会議員を辞任し訴外伊藤喜一が繰上当選となつた結果次点者蔭山眞との差が十六票となり潜在的無効投票は影響がないことになつたと述べ立証として甲第一号証の一、二を提出し証人高橋清の証言及び檢証の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張(一)の事実は認める。(二)の事実については訴外伊藤喜一に投票せられた汚染の一票は地方自治法施行令第四十條第四項の規定により選挙人がその現在する場所において記載をした投票が混在する場合においては(本件選挙にこの種の投票が若干ある。)投票場に筆墨の備えがなかつたという理由で故意に墨こんを附着させたと断ずることはできないのはもちろんであつて、汚染であるか故意の記載であるかは投票そのものに附着せる墨こんの形状によつて判断するの外なく、しかして右の一票は汚染の形状から見て過失によつて付着したことが明白であつて他事の記載とは認められない。

(三)の主張は從來の学説制的に反する原告の独自の見解である。なお候補者蔭山は得票数第三十二位であつて次点者ではない。

(四)の前半主張については從來の異議申立ならびに訴願において少しも主張せられなかつたところであつてこれを本訴において追加主張するのは自治法第六十六條第六項の規定等から見て選挙の結果を迅速に確定せしめようとする法律の精神に反するものである。原告鈴木周三が辞任し訴外伊藤喜一が繰上当選の処置が採られた事実は認めると述べ、立証として乙第一ないし七号証を提出し、檢証の結果を援用し甲第一号証の一、二の成立を認めた。

四、理  由

昭和二十三年五月五日執行せられた武生市会議員選挙において原告木倉政治郎が投票数二百九十五票、同鈴木周三が二百九十一票、同大沢清が二百八十八票訴外伊藤喜一が同数の投票を得、右伊藤と原告大沢とについて、くじが引かれた結果原告等三名が当選と決せられたこと、これに対し訴外大滝正雄、鶴野園喜からそれぞれ異議の申立があつたが武生市選挙管理委員会がそれぞれこれを却下したこと、そこで右両名は更に被告に対し訴願をなしたところ、被告は前記選挙管理委員会が無効とした伊藤喜一の汚染の投票一票を有効とし、さらに投票中に潜在的無効投票が七票あるとして、さきに前記選挙管理委員会が当選と決定した原告等の当選を取消す旨の裁決をしたことは当事者間に爭のないところである。

そこで原告主張の汚染の一票の効力について考える。檢証の結果に徴すると同票(檢甲一)は候補者氏名欄に鉛筆書にて伊藤喜一と読みうる文字を記載しある外に右氏名の右下の紙端から斜右上に五分位の幅の墨こんがあつてその上方が細くなつて居りなおその付近に飛沫とおぼしい墨のあとがあるが、これは故意に記載したものとは見えず過つて汚染したと見るのが相当である。原告は当時投票場には筆墨の設備がなかつたといい、そのことは被告も認めているが一方選挙人の現在する場所における投票があつたことは爭のないところであるから右はその種の投票における過失の汚染と見るべく意識的に他事を記載したものと認めることはできない。從つてこの点に関する被告の裁決は相当であつて原告代理人の主張は採用し得ない。

次に原告代理人は他に本件選挙において無効投票とせられたものの中原告等の有効投票があり、訴外伊藤喜一の有効投票とせられたものの中無効投票があると主張し、これに対し被告代理人は右事実は本件当選の効力に関する異議及び訴願において主張せられなかつたところであつて本訴において主張し得ないものであると抗弁する。なる程選挙の爭訟がその性質上迅速に解決せられなければならぬことは法の要請するところであるが、異議及び訴願において主張しなかつたことはその後の訴訟において主張ができないという趣旨のことは何等これを認める根拠がないのみならず却つて異議及び訴願というものが行政廳に対して自己及び下級行政廳の処分是正の機会を與えるに過ぎないのに対し、訴訟こそは当事者の主張立証によつて選挙の公正を維持せんとする最後のとりでとなるものであるという制度本來の精神に鑑みるときは異議訴願で主張しなかつた事実をその後の訴訟において主張することは何等妨げないものと解するを相当とすべく被告の前記主張は当を得ない。そこで檢証の結果によつて原告の右主張を檢べて見るに、まず本件選挙において無効投票とせられたものの中檢甲四には候補者氏名欄に一見スズマと読まれる極めて稚拙な記載があるが、しさいにこれを檢討すると、右のマに読まれるような文字は横に二本の線を引いた上右二線を左上から右下に貫くべきところを過つて上の右角から左下に斜線を引いたものと見られ、キを書く意図であつたことがうかがわれ、一方成立に爭のない甲第一号証の二によれば、他にまぎらわしい候補者氏名がないから右の投票は原告鈴木周三の有効投票とすべきである。しかし同檢甲二は候補者氏名欄に木倉浅治郎と記載しその右側に片仮名で傍訓が施してあるが、右甲第一号証ノ二によれば、議員候補者中に山田浅治郎なるものがあることが明らかであるから右投票は木倉政治郎に対するものか山田浅治郎に対するものか不明であり、結局地方自治法第四十一條第一項第七号いわゆる候補者の何人を記載したかを確認しがたいものとして無効とすべきである。また檢甲三の記載は片仮名のサの一字は読み得られるがその上の文字は判読し得られないのみならず前記甲第一号証の二の候補者中に矢佐彌一なるものがあることから考えて、到底これを原告大沢清の有効得票と見るを得ないからこの後の二票が原告木倉及び大沢の有効投票であるとの原告主張は採用しない。

つぎに前記檢甲一を除き訴外伊藤喜一の有効投票とせられたるものの中原告において無効であると主張するものについて精査して見るに檢甲十はイトキ一と記載してあり右伊藤喜一を指称したものと解せられるが右記載は運筆筆勢等から見て明らかに型紙を使用したものと見られるので前記法條第六号にいわゆる候補者の氏名を自書しないものに該当するものとして無効たるべく、また、同二十四は伊藤喜一の記載の右下方に点が施してあるが、その点は形状筆勢大いさ等から、普通文字に句切をつける習慣等から不用意に記されたものと見るを得ないもので、何等かの意図をもつてしるされたものと見るべきである。したがつてこれは前記法條第二号に候補者氏名の外他事を記載したものとして無効たるを免れない。しかして、その他原告の挙示する右伊藤の得票中には原告主張のような無効原因を発見しえない。

そうすると本件選挙における有効投票は原告木倉政治郎二百九十五票、同鈴木周三二百九十二票、同大沢清二百八十八票訴外伊藤喜一二百八十七票となり他に潜在的無効投票がなければ原告等三名が当選するわけである。

ところで成立に爭のない乙第七号証別表によると、本件選挙において、選挙権のない朝鮮人四名及び刑の執行猶予中のもの三名が投票していることが明らかであつて右は何人に投票したか明らかでないいわゆる潜在的無効投票であるからその投票数七を当選者の得票数から控除して次点者伊藤喜一の右得票数と比較して見なければならぬ。そうすると原告木倉政治郎の得票は二百九十五票であつて右無効投票が全部同人に投ぜられたものとして、これを控除してもなお有効得票数二百八十八票となり次点者伊藤の有効得票数より一票多いわけで、同人の当選は動かないところである。しかるに原告鈴木及び大沢についてはそれぞれ右七票を控除するときは次点者伊藤の有効得票数二百八十七票以下となるので同人等を当選者と定めるわけにはいかない。

原告代理人は候補者全部の得票数から右の無効投票を控除して比較すべきだといい、また一人の当選人について控除したら他の当選人から控除すべきでないというが、当選人各個人について右無効投票数を控除して、これを次点者の得票数と比較することによつて前者が後者よりも多い場合に始めて当選は確定的となるのであつて、これに反する場合は当選しないかも知れない可能性のある場合であるからこれを当選人ときめるわけには行かず、從つて当選人全部について、各個にこれを控除して次点者の得票数と比較する要があるのである。(次点者自身はこの場合絶対に当選者となり場ないこともちろんである。)

なお原告代理人は原告鈴木周三は本訴提起後議員を辞任し訴外伊藤喜一が繰上当選となつたから原告等の中の最小得票者の得票数と次点者蔭山眞の得票数との差は十数票となつたから右の潜在無効投票数は原告等の当選に影響しないという。しかし本件選挙の結果は前認定のとおり原告中では木倉のみが当選人であつて、訴外伊藤が次点者であり原告鈴木と同大沢は右潜在的無効投票のために当選人となり得ないのであるから、鈴木の形式的辞任(眞実の当選人でないから)によつて他に何等の影響を及ぼすことにはならず、原告大沢も訴外伊藤も当選人とならないことは当然である。

以上説明するとおりであつて原告代理人の本訴請求は原告木倉政治郎の当選を確認しこれに反する被告の裁決の取消を求める範囲においてその理由があるのでこれを認容しその他は理由がないので、これを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十二條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奬 茶谷勇吉 白木伸)

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